最新マンハッタン投資用一棟物件市場動向≪2025年3Q≫

2025年第3四半期、ニューヨーク市の投資用一棟物件市場は引き続き堅調な回復基調を示しました。取引件数は前四半期比で7%増加、取引総額は14%増加と伸長。前年同期比では件数が17%増、金額は23%増と、明確な上昇トレンドが見られます。

本四半期の特徴は、資金力のある機関投資家による大規模かつ高品質な取引の増加です。特にマンハッタンの投資用一棟物件市場を「コア資産」と位置づけ、長期的な成長を見据えた投資姿勢が目立ちました。Douglas Elliman社の20257月レポートによると、マンハッタンの家賃中央値は$4,700に達し過去最高を更新。また、同年9月のレポートでは空室率が2.11%と発表され、安定した稼働率が評価を高めています。こうした強固な賃貸需要を背景に、機関投資家による大型ポートフォリオ取引や資産入替が活発化しました。

四半期内では、2,000万ドル超の投資用一棟物件取引が14件成立し、そのうち2件は1億ドルを超える大規模取引でした。これらの案件だけで総取引額の45%を占めており、機関投資家の資本の存在感が一段と際立ちました。前回のコラムでも触れた通り、2025114日に実施されるニューヨーク市長選挙が不動産市場に大きな注目を集めています。

民主党予備選を制し、現在最有力候補とされるマムダニ氏は、市全域の家賃安定アパート(Rent-Stabilized Apartment)を対象に家賃凍結を実施することを公約に掲げています。これにより、投資家・家主双方で将来的な収益性への懸念が広がっています。現職のアダムス市長が出馬を辞退したことで、今回はマムダニ氏、前州知事クオモ氏、共和党候補スリワ氏の三つ巴の構図となりました。不動産業界では、仮にマムダニ政権下で0%の家賃上昇(実質的な家賃凍結)が継続した場合、今後4年間にわたる物件評価、賃料見通し、投資戦略への影響を慎重に見極める動きが強まっています。

202412月以来となる利下げが、20259月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で決定されました。フェデラルファンド金利の誘導目標は0.25%引き下げられ、4.00%〜4.25%のレンジとなりました。依然として先行き不透明感は残るものの、市場では2026年にかけて段階的な追加利下げが続くとの見方が優勢です。FRBの最新経済見通しによると、金利は最終的に3.25%〜3.50%程度まで低下する可能性が示されています。

このような金利の下落局面では、投資家は現在の価格前提で取引を進めつつ、将来的により低いコストでのファイナンスを確保できるため、キャップレートと資本コストのスプレッドが一時的に拡大する状況が訪れる可能性があります。こうした環境が、今後数四半期の機関投資家による取得意欲を後押しする要因となると見られ、機関投資家よりも資産規模の小さなローカル投資家も後を追随するものと考えられます。

参考:
・Ariel Property Advisors, Multifamily Quarter in Review: New York City | Q3 2025
・Douglas Elliman Real Estate & Miller Samuel Inc., The Elliman Report: July 2025 — Manhattan, Brooklyn & Northwest Queens Rentals

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