◆お役立ち情報◆米国不動産投資にかかる税務豆知識~初級編~

皆様こんにちは。このシリーズでは、米国不動産(賃貸物件)に投資する日本の皆様の税務について解説します。順を追って、個人投資家、法人投資家のケースと説明していきます。前回の第2回では、日本の居住者である個人投資家が日本で確定申告するときの不動産所得の計算方法について説明しましたが、今回の第3回では、日本の税務上の建物減価償却費の計算方法についてさらに詳しく説明します。
建物の取得原価は、いったんは土地と同様に資産計上されますが、当該建物の建築年月日に基づき決定される耐用年数により、購入後当該不動産を使用し始めたときから、減価償却により、毎年費用が計上されます。減価償却費の税務計算に適用される耐用年数および計算方法は、日米で異なりますので、米国の所得税申告(Form1040NR)の減価償却額ではなく、日本の所得税法に基づいた減価償却費を計算します。(なお、取得価額が30万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下で、取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費したり、減価償却資産の全部または特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができたりしますので、詳細はご担当の顧問税理士にご相談ください。)それでは、<減価償却方法><耐用年数><国外中古建物の不動産所得の損益通算等の特例>に分けてそれぞれ解説していきます。

<減価償却方法>
減価償却方法は、その資産の取得時期によって、変わってきます。例えば、建物では、平成10年3月31日までに取得した建物は、原則的には旧定額法(届出により旧定率法を採用することも可能)。平成10年4月1日から平成19年3月31日までの間に取得した建物は、旧定額法。平成19年4月1日以降に取得した建物は、定額法というように、同じ年に減価償却する場合でも、建物ごとに取得時期によって減価償却方法が変わってきます。現在保有していらっしゃる米国賃貸不動産のほとんどは、平成19年(2007年)4月1日以降に取得した「建物」、平成28年(2016年)4月1日以降に取得した「建物付属設備、構築物」、平成24年(2012年)4月1日以降に取得した「機械装置、車両、器具備品など」かと思われますが、それらに対しては定額法が適用されます。(なお、上記の取得には、購入や自己の建設によるもののほか、相続、遺贈または贈与によるものも含まれます。)

定額法による減価償却費=取得価額×定額法の償却率(1/耐用年数) となり、
例えば、1億円の建物の耐用年数が4年の場合には、減価償却費=1億円×0.250(1/4年)=2,500万円となり、
年の途中から3か月間だけ使用した場合には、2,500万円×3/12=625万円となります。

償却率は、小数点以下4桁までに定められており、例えば、耐用年数が4年であれば、定額法の償却率は1÷4年=0.250になりますが、耐用年数3年の場合は0.334と定められていますので、取得価額を単純に3年で除算した金額とでは端数に差がでます。実際の計算では、国税庁の減価償却資産の償却率表をご参照ください。(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_02.pdf

<耐用年数>
耐用年数は、取得した資産の種類、用途、構造によって定められています。例えば、住宅用建物で、木造のものは22年、鉄骨鉄筋コンクリート造あるいは鉄筋コンクリートのものは47年となっています。(「主な資産の減価償却耐用年数表」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf)中古資産を取得した場合には、法定耐用年数ではなく、見積使用可能年数を耐用年数とすることができます。また、その見積が困難であるときは、簡便法を適用できます。簡便法の耐用年数はつぎのように算定します。

法定耐用年数の全部を経過した資産:見積耐用年数=法定耐用年数×20%
法定耐用年数の一部を経過した資産:(法定耐用年数-既経過年数)+法定耐用年数×20%

算出した見積耐用年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、その見積耐用年数が2年未満の場合には2年とします。例えば、建築から22年を経過した木造住宅の使用期間が見積もれず、簡便法により見積耐用年数を決める場合には、法定耐用年数が22年なので、見積耐用年数=22年×20%=4.4年→4年の耐用年数になります。ただし、中古資産のために支出した資本的支出(修繕費等のうち耐用年数を延ばす効果があると認められる支出)の金額がその中古資産の再取得価額(中古資産と同じ新品のものを取得する場合のその取得価額をいいます。)の50パーセントに相当する金額を超える場合には、使用可能期間の見積りや簡便法による耐用年数は適用できず、法定耐用年数を適用します。

<国外中古建物の不動産所得の損益通算等の特例>
令和3年(2021年)以降、個人が国外の中古不動産の賃貸収入による不動産所得があり、その年分の不動産所得が損失(赤字)の場合、その損失のうち、「簡便法」による見積耐用年数による国外中古建物の減価償却費に相当する損失(赤字)部分の金額については、その年の不動産所得(損失)の計算から除外することになりました。これにより、その損失の金額については、他の所得との損益通算はできなくなっています。この計算では、海外中古建物を複数所有している場合には、個々の海外中古建物ごとに計算し判定することになります。上述した取扱は、あくまでも、「簡便法」による見積耐用年数を採用するケースに限られますので、海外建物でも、法定耐用年数あるいは実際の使用可能期間を適切に見積もった(ただし見積の根拠が必要)耐用年数の適用により計算した減価償却費で生じた損失は、従前どおり、他の所得との損益通算が認められます。従って各年の不動産所得の計算ならびに損益通算で除外された「簡便法」による見積耐用年数による国外中古建物の減価償却費の金額は、将来、当該海外不動産から生ずる譲渡所得の計算で差し引くことができます。(その分譲渡所得の金額は少なくなります。)
著者 アクタス税理士法人 公認会計士・税理士 千葉哲範

日本公認会計士協会・租税調査会・国際租税専門委員会委員、日本税理士会連合会理事、東京税理士会常務理事、インテグラ・インターナショナル理事を現在、務める。企業法学修士(筑波大学)、米国税務修士号(Walsh College)を所持。これまで国内系および外資系企業への税務サービス、ベンチャー・キャピタルへのアドバイス、ベンチャー企業への株式公開コンサルティングなどに従事。クライアントに対して痒いところに手が届くサービスを提供することが信条。また、事務所運営では優秀なプロフェッショナルを育てる職場づくり、魅力ある組織づくりを絶えず追求している。

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